役者は基本、怠け者
Theatre Arts学部2年生が「アラビアンナイト」の中の「アリババと40人の盗賊」の舞台を作るのを見学させてもらってます。
今日は演出担当の学生二人が頭を抱えているシーン
40人の盗賊が馬に乗り大地を揺らし崖を駆け上る
頭の号令でいっせいに馬から降り、次の頭の号令でいっせいに刀剣をかまえ、周囲を警戒する
を、みんなで作りました。
いやあ、このト書き(脚本にある場面の説明書き)、演出家殺しです。私が演出家だったら、とりあえず見なかったことにしたい^v^; あなたならどうしますか?ちなみに、
大道具なし
小道具なし
音響なし
衣装なし
照明は明るさの調整のみ
予算0
です。なんていったって、声と体について学ぶのが、この授業の課題ですから。
演出担当の二人は様々な提案を役者陣にしたようなのですが、「ベタじゃね?」「古いよ」「んー、ビミョー」といまいちな反応だったそう。しかも、納得のいく演出案が出せない演出担当に対し、役者陣は露骨にやる気のなさを見せ、せっかく稽古場をとっても、大幅に遅刻してきたりするそう。
やだ、もう、演出担当の二人がかわいそうすぎて泣きそう>A<,
二人ともすごく優秀な学生だけに、この状況は辛すぎます。
しかし!今日は講師の先生が二人がかりで問題解決のためのきっかけを作りました。
まずは、今日、遅れてきた生徒達を、一人の先生が廊下に連れ出して徹底的にしかりつけた!
遅刻することで遅刻していない人たちにどれほど迷惑をかけるか、遅刻することでプロの現場ではどれほどの損失を生むか、そもそも恥ずかしいとは思わないのか、と徹底的に。
遅刻しなかった生徒達は廊下からもれ聞こえてくる先生の叱責に「遅刻しなくて良かった。これからも絶対遅刻しない」と胸に誓い、廊下から戻ってきた遅刻組は完全にむくれていました。しかし遅刻組が戻ってくるやいなや、もう一人の先生が生徒達にどんどん体を使う課題を出します。
「馬に飛び乗ってスタジオ内を一周!」
を10回とか^v^
そうすると、もう、むくれてる暇はなくなっちゃうんですよね。体を動かせば体温も息もテンションもあがり、妙に楽しくなってくる。でも、同じことを10回やると、だんだん演技が形式化してくるんですよね。最初はちゃんと馬や大地を感じていた生徒も、回数を重ねると「馬や大地を感じてる」ふりをし始める。そうするといわゆる「くさい演技」になってくるわけです。本人達は楽しんでるんですけどね。
演出組は役者陣が「くさく」なってることに気づき、笑顔を保ちつつも、そわそわし始めました。先生達は役者陣に「君たち、演技くさいよ!」とは言いませんでした。代わりに、別な課題をどんどん与えて行ったんです。
「馬に乗って駆け巡るを50%の力でやってみて」「10%でやって」「100%で!」
「乗る馬を自分で選んで。すごく大きい馬でも小さい馬でも、もうロバでもいいや」
「自分が持っている刀剣を自分で選んで。切れ味のいい半月刃か、仕込みナイフか、どっかで落としてきたか」
想像力と創造力を刺激された生徒達の演技は、どんどん個性的になり、回数を重ねるごとに、くさくなるどころか研ぎ澄まされていきます。そんな生徒達に、先ほど廊下で叱りつけていたほうの先生が一言。
「役者は基本、怠け者なんだよね」
せ、せせせんせい、言っていいんすか、そんなこと😱
さらに、
「同じことを繰り返しやる時は、常に楽な方法を選んじゃう」
とまで、おっしゃる。でも、ここで生徒達はハッとしたようです。
だから、演出は常に役者陣に課題を与えなければいけないし、
役者は常に自分で課題を探さなければいけないのだ!
と。それに気づいてからの生徒達の演技は、全く違うものになりました。先生は決して演出をつけず、最初から最後まで演技の課題を出すだけでした。生徒たちが今やっていることといえば、想像上の馬に乗ってスタジオを駆け巡り、想像上の馬から降り、想像上の刀を抜くだけ。子供のごっこ遊びと同じ。でも、皆が「自分で選んだ馬」に乗り、「自分で選んだ刀剣」を構えているので、そこには個性と説得力があるのです。
今日の学びをふまえ、演出の二人がどんな演出案を出すのか、役者陣がどんな演技を生み出すのか、とても楽しみです。ちなみに授業の最後に、遅刻組を叱らなかった方の先生が経験した地獄のような稽古場の思い出話を聞きました。
「1日11時間稽古で、稽古場に持ち込んでいいのは水のペットボトルだけで、いかなる理由(トイレも含む)でも稽古場を離れる時は稽古場にいる全員の賛同を得なけれないけない」
なんて話を聞いたあとでは、遅刻したことを怒るくらいの演出や先生は天使にも等しく感じられますよね^v^;
先生二人の見事な連携プレーにも感動です。